滅多に使わない製造書を探している最中、ひっかかった棚から鍵がばらばらと床に落ちる。
一瞬の沈黙の後はぁあ、と銀髪の女アルケミストが溜息をついた。渋々だがそちらを片付けることを優先する。
そうでなくとも倉庫やらなにやらで鍵はそれなりにあるというのに、ギルドに所属する者達の部屋の鍵もあるのだから当然数は多い。とはいっても、そうそう拠点には戻らない者ばかりなのだが。
一つずつそれを拾いながら、先代である義母は何故、こんなギルドを作ったのかとふと過った。
所属する者の大半が、それぞれの考えの元偽名を名乗っている。その身分の保証もギルドマスターが担っている。先代ならば養母、今は自分だ。
当然、保証する以上は調べもする。それも徹底的に洗い出す。
調べ、出てきた共通点は何かしらを失っている事だろう。理由はそれぞれではあるけれども。
もう一つの共通点は、彼ら、彼女らが総じて自らを裏切り者だと認識している事だ。
鉄則は、そんな彼らの成す事、行く先に口を挟まない事。そして何かしらの問題があった場合には、どんな形であれきっちり埋め合わせはして貰う事。
その為の手段を養母は問わなかった。仕事を引き継いだのは5年は前になるか。
じゃあ暫く任せるわと旅に出たきり戻らない義母に、ギルド設立の意図を問う手段はない。
何しろ行き先も告げず出て行ってから2年以上が過ぎている。あの養母が本気で消息を絶とうとしたなら、探すのは至難の業だ。
恐らく、聞いたところで答えてくれないか、とんでもなく単純な理由なのだろうけど。
そう内心で結論付けて、鍵をしまうと再び製造書を探し始める。数分探してあったと見つけた矢先、「社長、アルコールまだー?」と長い銀髪を後ろで編んだアサシンが外から窓を開けて顔を覗かせる。運悪く窓際に置いていた乳鉢が弾かれて床に散った。
しん、と妙に静かな空気がその場を占める。
「…」
「あーあ、そんなところに置いてるから」
「いや、そもそも窓って外から開けないでしょ」
「窓から出入りは常套手段でしょ」
「どこの?」
「私の」
「…」
再度沈黙。
「…あ、うん自腹で買ってくるわ」
思わず傍らの棚を叩きつけてやろうかと両手を伸ばしかけると、空気で察したのか窓を閉めてアサシンが姿を隠す。
見えなくなってからやれやれと溜息をついて箒を手に取ると哀れに散った乳鉢の後片付けを開始した。
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