「そうしていると、まるで銀髪の魔物のようだ」
月のない夜の下、木の枝に腰掛けて空を眺めていた女アサシンがその声に下を向く。見下ろした先にはいつの間に来たのかプリーストが一人佇んでいた。
「おまえが言うと誉め言葉に聞こえるから不思議だよ」
ひょいと肩を竦めてみせると、アサシンが銀の三つ編みを揺らしてくるりと器用に枝を回るように降り立つ。
そのまますいとプリーストの手元の荷物から林檎ジュースを一つかすめ取り口をつけた。数の多さを思えば恐らくはポリンの餌だろう。
そもそもこの男、甘い物がてんで駄目ときている。
「それはそうだ。誉めてるのだからな」
相手の行動はまるで気にしていないらしい。さらりと言ってのけると幹を背にするように座り、傍らに荷物を置くと目隠しを外して先刻のアサシンのように空を見上げた。
「そういえば髪染めたのね」
幹を挟んで背中合わせになるような位置にアサシンもまた腰を下ろす。少し前にな、と空を見上げたままプリーストが答えた。
今では違うギルドに籍を置くものの、元は同じギルドに所属していた。知らない仲ではないし、自分が所属するギルドに招いたのもアサシン自身だ。
本来の髪色が目を引くほどの赤色だという事は当然知っている。
「黒髪もまぁ悪くないわね。紅の瞳に漆黒の髪。私が銀髪の魔物なら、おまえはさしずめ宵闇に住む悪魔か」
アサシンが紡いだ台詞に、プリーストが僅かに後ろを振り返る。少しの間のあと小さく笑った。
「俺はただ一介の異端の聖職者だよ。そんな大層なものではないなぁ」
いやに空々しく戯けた声音で言い、前髪を退けると再び目隠しで双眸を隠す。予想通りの反応に、振り返りもせずアサシンがにやりとした。
「悪魔でなくば亡霊よ。それも半端じゃなく極上の。おまえがただ一介の異端だと?」
そんな生易しいものでは無かろうに。その台詞を飲む込むかわりに目を細めて喉の奥でくつくつと笑う。
ひどいな、というまるで気にしていなさそうな軽い声が背後でぼやいた。
▼05 [ 微笑みと死の宣告 ]
▼03 [ 乳鉢の災難 ]
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