せめて送る最後は花であれ、というのはある種の信念かも知れなかった。
「残念でした、女神じゃなくて死に神なの」
囁いて綺麗に笑う。それこそ花か女神のように。
眼前の女アサシンがカタールを構えるのに男は逃げようともしない。事態の変化についていけないのか、それとも腰でも抜けたか。
恐らくは前者であるだろう。
つい先刻まで一緒にダンジョンに潜り、戻ってきて酒場に寄った。
その帰り道に人気のない路地に入った途端、先刻までと、酒場で談笑していた時と同じ声色で銀髪のアサシンが放った「おやすみ」の一言は、就寝ではなく永別を意味する。
口付けるように傍に寄り、その切っ先が喉元に触れる直前で止まる。
「…どうして?」
ようやく口をついて出たのはその一言だけだった。
「どうして?殺すのが生業の暗殺者にをれを問うのか」
女らしい言葉遣いはそこにはない。あるのはただ優しい微笑み。
「生憎答える義務は無いのだよ。我らは唯狩るだけの部品だ」
死者への手向けの花のように微笑みだけを残して、硬い輝きが一閃した。
その瞬間を境に生き物がただの肉塊に変わり、それを見下ろしカタールについた血を拭う。
「さようなら。ひとときだけ友人だった青年」
痛みも苦しみも残さない黄金の死。名前さえ呼ばず道化のように呟いて路地の闇を更に奥へ向かう。足音もなく。
死以外を与えられないと嘆いた日は遠い。
▼06 [ ウィザードとポポリンの旅 ]
▼04 [ 銀髪暗殺者と紅眼の聖職者 ]
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