■短話・記憶ノ欠片 [ 微笑みと死の宣告 ]


   せめて送る最後は花であれ、というのはある種の信念かも知れなかった。

   「残念でした、女神じゃなくて死に神なの」
   囁いて綺麗に笑う。それこそ花か女神のように。
   眼前の女アサシンがカタールを構えるのに男は逃げようともしない。事態の変化についていけないのか、それとも腰でも抜けたか。
   恐らくは前者であるだろう。
   つい先刻まで一緒にダンジョンに潜り、戻ってきて酒場に寄った。
   その帰り道に人気のない路地に入った途端、先刻までと、酒場で談笑していた時と同じ声色で銀髪のアサシンが放った「おやすみ」の一言は、就寝ではなく永別を意味する。
   口付けるように傍に寄り、その切っ先が喉元に触れる直前で止まる。
   「…どうして?」
   ようやく口をついて出たのはその一言だけだった。
   「どうして?殺すのが生業の暗殺者にをれを問うのか」
   女らしい言葉遣いはそこにはない。あるのはただ優しい微笑み。
   「生憎答える義務は無いのだよ。我らは唯狩るだけの部品だ」
   死者への手向けの花のように微笑みだけを残して、硬い輝きが一閃した。
   その瞬間を境に生き物がただの肉塊に変わり、それを見下ろしカタールについた血を拭う。
   「さようなら。ひとときだけ友人だった青年」
   痛みも苦しみも残さない黄金の死。名前さえ呼ばず道化のように呟いて路地の闇を更に奥へ向かう。足音もなく。

   死以外を与えられないと嘆いた日は遠い。


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▼04 [ 銀髪暗殺者と紅眼の聖職者 ]



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