七つの大罪。
傲慢、嫉妬、暴食、色欲、怠惰、貪欲、憤怒。それらは昔から動物や悪魔の姿で描かれる。
どれが悪いということもないんじゃないの、と花のような薄紅の髪のプリーストが答えた。
「強いて言うなら色欲とか?」
傍らでそう続ける台詞を、資料を繰りながら赤い髪のプリーストがそうかと流す。愛想も何も無い反応に、話振ったのはそっちじゃんと不満を述べられた。
「そういう自分はどうなのよ。暫く居なかったと思ったら、戻ってくるなりそんなさぁ」
何の資料だと言わんばかりに立って上から覗き込んでくる。溜息を一つ吐きぱたりと資料を閉じると、えー、などとどこか抗議じみたわざとらしい声が響いた。
「嫉妬…かな」
閉じた資料の上に予防とばかりに手を置き、反対の手でやや強めに眉間を押しつつ呟く。
封印をと言われた目は、実はそこまで自分に影響しない。自分の状態によって目のほうに影響が出る、というのが正しいからだ。
そもそも、体質的に呪いがかかりにくい。恐らく封印の類もそうだろうと思っていた。
それ自体は案の定というオチだったのだが、中途半端に残っている封印の影響で時々視界が暗くなる。
「その理由は?」
「それさえあれば、人は人を殺せる…簡単にな」
言ってから手元の煙草の箱に手を伸ばす。取ってから空であることに気付くと一瞥してくしゃりと握りつぶした。
再度溜息が一つ。
「溜息ばっか吐いてっと老けるよ」
「大丈夫だ、とうに枯れている」
「いやどうかな、相変わらず色々噂は聞くけど?あれが全部事実無根てことはないんじゃないの?」
薄ら笑いと共に、薄紅の髪のプリーストが続けた。大凡どうでもいい噂の事だろう。
半分は悪魔憑きの、残りは女性絡みのものか。もしかすると他にも何かあるのかも知れないが、特に気にした事も無かった。言いたい者には好きに言わせておけばいい。どのみち害が無い。
ついでに言うなら、その全てが事実無根という事はない。それはその通りではあるが、言及するのも面倒臭そうなのでやめておいた。
「何にせよ、個人の発想はどのみち実体験に基づくと言うことか…」
「へー、てことは嫉妬で過去に何かあるんだ?」
盛大にスルーして感想だけを述べると、途端、興味をひかれたように薄紅の髪のプリーストが覗き込む。覗き込まれた方はといえば頬杖をついたまま面白くもなさそうに一瞥しただけだったが。
「異端は何かと嫉妬や羨望の対象になりやすい。妬まれ、疎まれる」
特に面白い話でもないと言い捨てるとふいと視線を戻し、手元の資料を軽く整えて席を立つ。
「ちぇ、面白い話の一つくらいきかせろよー」
「面白いのはおまえだけで充分だ」
さらりと返された台詞に一瞬だけぴたりと止まる。
「おまえほんとやな奴だよね。そもそもなんで急に大罪の話なんてしだしたのさ」
普段そんな事言わないだろと続ける。
少なくともこの赤い髪のプリーストがまっとうな聖職者でないことくらいは知っていた。どちらかといえば神など知ったことかという部類だ。
いつだったか、神罰が怖くて聖職者がやれるかとさえ言ったこともある。
そういう意味では、自分など比較しようもないくらいに面白い男ではあるだろう。
「…眠いからかな」
歩きかけた足を問われてぴたりと止め、きっぱりとそんな一言を返す。それだけだ、と付け加えるとそのまま書庫をあとにする。
あまりに淡泊で中途半端な一言に、あとに残されたもう一人のプリーストが、数秒おいてからどこか拍子抜けしたような表情でまぁいいやなどと呟いていた。
▼09 [ 色褪せぬ記憶と添える花 ]
▼07 [ 神の威を刈る ]
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