■短話・記憶ノ欠片 [ 一種の放置プレイ ]


   もういいから好きに騒いでいろと部屋の主が口にしたときには既に遅い。

   他愛の無い事からああでもないこうでもないと始まった言い合いがエスカレートし、双方が騒がしくなって数分後の事だった。
   部屋の主の声が聞こえたかと思えば、その時には席を立った長身が直ぐに手の届く距離で後ろにいる。
   モンクの装束についたフードが力任せに掴まれ、引き戻され床に転がされるのと殆ど同時に後ろ手に手錠がかけられたあとだった。あまりにも良すぎる手際に抵抗する暇すら貰えない。
   離せと暴れてみたものの、養父ほどではないがそれなりにある力を平然と抑えつけてくる。
   転がされているのは二人、それも方や養子モンク、もう一人も未だモンクではないがその見習いといったところだ。それをプリーストが一人で悠々と押さえ込んでくるのだから、どれだけ戦闘慣れしているのかと問いたくなる。
   ついでに言うならこの男、殴り特化ではなく回避型の退不死特化の筈だったのだが。
   十数秒もする頃には、モンクもどきの青年と二人揃って床に縄で括って転がされていた。
   「騒ぎたいなら思う存分そこで喚いているといい」
   「ちょ…ちょぉ待て!解けよこれ!!」
   「おい何引っ張って…おわぁぁやめろそれは!!」
   あまつさえ、それだけでは済まされない。
   そこまで力が強いとも思えない腕が軽くこちらをつかみ持ち上げて、ひょいと難無く窓の外へ放り出した。
   今居る部屋が何階かを思い返した瞬間、肝が冷えるがそんな事を汲み取ってくれる筈もない。
   自分達の重さと、何かにひっかかった衝撃で縄が食い込むように軋んだが、痛みよりも眼下の遠い地面のほうが問題だ。自由の利かないこの状態で落とされてはただでは済まないだろう。最悪、自分が下に入ればもう一人は怪我させずに済むだろうか。
   「何階だと思ってるんだ、おろせーっ!!」
   体は、背後で叫んでいるモンク見習の青年のほうが丈夫だろうが、怪我をさせれば養父が気にしそうだ。
   心配をするつもりはない。だが、公然と自分の養父に懐くことのできる状況を与えるくらいなら多少下に轢かれるくらい安い物だ。
   「喧しい」
   文句を叫んでいると頭上の窓から、赤い髪に学生帽を被ったプリーストが見下ろす。あからさまに営業用の爽やかな笑みを浮かべての台詞だったが、声だけが氷点下だ。
   にこやかに宣われた短い言葉に、降ろす気はないのだろうと悟らされる。窓際から姿が見えなくなり、とどめとばかりに気配すら消えた。
   これみよがしにしっかりと、普段碌にしもしない、扉鍵がかけられる音が聞こえた気がした。
   結局、そのプリースト付きのアコライトが部屋に訪れて見つけられるまで数時間は吊されたままとなったのは言うまでも無い。

   二度とあいつの部屋で騒がしくするまいと、本気でそう思った。


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